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2012/4/16 グローサリーストアの娘

夙川の桜は葉桜、川面に花筏が流れゆく。


…『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』@ステーションシティシネマ
原題通り「鉄の女」でいいと思いませんか? なんで涙がつくんだ?
『鉄の女はミタ』にしましょか。
でも、うちの部長、愛とか悲しみとか涙とかいれとかないと通らないからなあ。
配給の企画会議の様子が容易に想像出来て気持悪くなる。

    ]


作り手として監督がサッチャーをどう思っているか?
演じているメリル・ストリープも好感を持って演じているとは思えない。
役者としては演じきるしかない。
でも…。
それが気になって仕方なかった。


エンドクレジットが流れ終わ館内の照明が明るくなった時だった。
スクリーンのほぼ真正面中央から誰かが大きな声で叫んだ。
「マーガレット・サッチャーとロナルド・リーガンに賞賛を!」
英語だった。
たぶん、Applaud to Margaret Thatcher and Ronald Reagan!だ。
そして、こう続けた。
「Against Communism(打倒共産主義!)」
観客は見て見ぬふり。
男は映画で夫デニス役を演じたジム・ブロードバンドに似た60代後半から70代の老人。
発音はジャパニーズイングリッシュだけど、職業的に英語を使っていた人のように思えた。
さらに男は何も映されていないスクリーンの真下で直立し右手を挙げてドイツ語らしく言葉で何か言った。
よくわからなかったがナチスの宣誓っぽかった。
誤解無きよう。
映画はネオコンのプロパガンダフィルムではありません。
イデオロギーの時代はとっくに終わっている。
たぶん映画の中のヒロイン(?)もそのことを知っていたのだと思う。


たまたまだが梅田の路上で「ビッグ・イシュー」を買った。
メリル・ストリープのインタビューが載っていた。
彼女がサッチャーをどうとらえて演じたか。
サッチャーが首相になったのは1979年、え?70年代だったのか。
ストリープはサッチャーがアメリカにいたら保守派とは言われなかったと
彼女の先進性について言及している。
アメリカが黒人(もしかして女性)の大統領を認めたのは2009年、

ついおととしのことだった。
ストリープは女性首相の誕生当時を振り返ってこう話した。
「彼女の方針には全然共感しなかったけれど、
 それでもかっこいいと思ったことを覚えているわ。
 すごいと思った。それに、ようし、世界で最も保守的な国で起こったのなら、
 米国でも2年もすれば、と思ったの。でも、30年かかったわね。」


我が国の首相は1年交替と決まっているが、彼女の在任期間は約12年だった。
映画を見ながら自分とサッチャーの時代を思い返していた。
就任が1979年(昭和54年)サッチャーは53歳、僕は22歳、大学生だった。
フォークランド戦争が1982年、僕は25歳。
首相の座を追われたのが1990年、僕は33歳か。
いわば僕の青春時代はサッチャーとともに歩んだ。(笑)
今でも僕にとってイギリスの頭領はマーガレット・サッチャーであって、
ヒースでも、ジョン・メージャーでも、ブラウンでもない。


冒頭は秀逸だった。
老いたサッチャーが街の小さなスーパーで買い物をする。
レジ係にミルクの値段を尋ねる。
49ペンスと知り高いわねとボヤく。
走る車ごしにサッチャーが歩道をのろのろと歩く。
『ストリート・オブ・ロンドン』というフォークソングを思い出した。
http://www.youtube.com/watch?v=DiWomXklfv8


   Have you seen the old man
   In the closed-down market
   Kicking up the paper
   With his worn out shoes?
   君は見たことがあるか 老いた男が 
   店じまいした市場で 新聞紙を拾い上げているのを
   擦り切れた靴で 新聞を蹴り上げて


60年代の不況にあえぐロンドンの下町を描いた歌詞。
かつて連合王国を率いた女性首相のわびしい老後の姿は哀れで心を打つ。
彼女もまた自らの施政時に苦しみを強いた労働者階級の出身だった。
しかし…。


このシーンには含みがある。
サッチャーにとってミルクは因縁の品なのだ。
保守党内閣に教育科学相として入閣した際、
予算削減を迫られ、それまで公立学校での牛乳の無償の配給を廃止にした。
国民から「ミルク泥棒」と言われ猛烈な抗議が巻き起こったのだ。
老いたサッチャーの「49ペンス?高いわね」にはニヤリとさせられる。

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映画作品として成功しているかはどうも怪しい?
嫌いじゃないけど物足りない。
手前勝手に言えば僕の期待していたような映画ではなかった。
うーん、作品の評価は難しいなあ。
現在と過去を行ったり来たりが多くて

(混乱するわけじゃないけど)見ていて落ち着かない。
もう少しマーガレット・サッチャーの歴史的評価をする時間が欲しい。
連合王国の上院議員になったのは40代半ば。
当時、男社会の中に飛び込んだサッチャーの当惑と闘争が映画に描かれている。
オックスフォードを卒業していても、平民出身の女性なのだ。
フォークランド戦争突入の時に彼女が言う。
 I have done battle every single day of my life.
 (毎日が戦い、一日たりとも闘わなかった日はないわ)
彼女は何と闘っていたのか?
人間サッチャー、女性としてのサッチャーを描こうとするのはわかるが、
僕が男だからかサッチャーの切実さや痛みが伝わってこない。
もっと言えば地方都市のグローサリーストア(食料品店)の娘だった彼女が、
いかにしてバリバリのタカ派となっていったかも描いて欲しかった。
え、描かれていた?
見落としました。


サッチャーは同じ保守党の内部抗争で首相の座を追われた。
ジョン・メージャーがさらに7年を務め、政権が労働党に移ったのは1997年だった。
トニー・ブレアの時代、その前後につくられた英国映画が僕は好きだ。
「ブラス!」「フルモンティ」「トレインスポッティング」などなど。
炭鉱、工業都市、労働者階級、失業、若者がキーワードの作品群。
パンフに、サッチャーの時代に苦難を強いられた炭鉱や工業都市で、

という表現が目立った。


WEBや雑誌でこの『鉄の女の涙』の解説を読むとちょっと呆れる。
英国経済を立て直したとか、新自由主義を英国再建を断行した鉄の宰相…。
サッチャーの生き方に感動しました、

という類のコメントが紹介されていると不安になる。
どうして鉄の意志を政治家ばかりに求めるのか?
人間サッチャーにはいかばかりか感動を覚えるが、政治家サッチャーには今でもノーだ。
小泉純一郎もいつか映画になるんだろうか。
桜井よしこはサッチャーをどう思ってるのだろうか。


…ばあばあ(義母)の見舞いへ住友病院へ行く。
昨日まで酸素マスクをつけていたばあばあだったが驚異の回復力で復活した。
頼みのスプリセルが効かなくなったようだが抗がん作用のある

ブレドニンが効いているのだそう。
体力勝負だ。
てん&モルの励ましにばあばあ破顔一笑。
てんが「あんたは奥目やなあ」と言われ落ち込む。
ぼくは岡八郎じゃないもん。
奥目のてんちゃん!


帰りにヒロと『土山人』で蕎麦、僕はせいろ、彼女はすだち蕎麦。
ポタージュスープのような蕎麦湯が絶品。
とろみが凄くてつゆと混ぜてご飯にかけたいくらい。
これだけでもお金とれるんじゃないの?
(でもあくまでサブであるところが贅沢)