2012/2/13 雨降りだから浪曲でも行こう

「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」
昔読んだ植草甚一のコラム本のこんなのがあった。
J・J 氏ですね。
植草甚一のスクラップブックも一時は買い集めたことがあるけど、あれはどこへ行ってしまったんだろう。


今日は雨ふり。
だから浪曲を聞こう。
雨だけどお出かけです。
誰かに、大店のお大尽みたいやな、と言われたがお大尽なら雨の日は浪曲師を家に呼ぶね。
ぼくは阪神電車と環状線を乗り継いで天王寺まで出かけた。
おなじみ『一心寺浪曲寄席』の2月公演です。
三ヶ月連続、1月公演は出演者が日替わりだったので2回来たので都合4回目の一心寺です。
おともは東大阪のK輪住職です。


今月は女流浪曲師が3人、こんな面子です。
京山一門と春野一門が二人ずつ。


月曜日、雨、寒い、ということもあってか席は埋まらない。
6割くらいの入りだろうか。
至近距離で生の浪曲が4人も聴けて2000円なのにね。
芸のレベルは高いし。

 


一番手は春野美恵子。
Twitte によると韓国ドラマのファンで猫の花子と暮らす普通のおばちゃん。
出番は年功序列ではないみたいです。
外題は『暗闇の丑松』、有名な話のようですが僕は初めて知りました。
美恵子さんは12月に『高田馬場』を聴いた。
立ち回りのテンポがよく小気味いい啖呵を聴かせてくれる。


二番手は黒一点、京山幸枝司。
きょうやまこうしじ、と読むそうだ。
ネタは京山一門の十八番『会津の小鉄』。
おなじみの幸枝節だが、ちょっと重い感じがする。
河内音頭の節にはもう少し軽妙さが欲しい。
なんてエラそうに書いてみる。
三条河原やら今出川やら京極やら、なじみのある京都の地名が出てきて楽しい。


三番手は“けいこ先生”、春野恵子。
「いまダイエット中の」と紹介される。
こころなしか顔がほっそりして見えた。
若いので気持ちよく声が出る。
幸枝若師匠に暮れの「シゴく会」で指導されたことをブログに書いている。


 調子を決めるときに、上で合わせるのではなく、下であわせなさいと。
 下が届くところで調子を定める。すると、上がしんどい。
 でも、その音程で出るように稽古をしていかなくてはならないと。
 いままでは、上で合わせてたんです。上がしんどくないところで合わせてたので、下の音がちゃんと出てなかった。
 それで、いま、デビュー6年目にして、そこからやり直そうとしているのでありますっ。
                     http://blog.goo.ne.jp/keiko-haruno/e/d6836f2f89b416ff8e77f5828898458c
   

浪曲は高音から低音まで広い音域を必要とされる芸だなのだ。
ブログによると三味線さんとカラオケ屋で合わせたりするんです。
浪曲師、苦労してるわ。
前回聴いた『播磨とお菊』より声が澄んで通っていたような。
中身は憶えているのだが外題のタイトルを忘れてしまった!
平安時代の京都のちょっと恐いお話。
もともとは平家物語に由来するお話。
うーむ、失念不覚…。


トリは大御所、御年78歳の京山小圓嬢さん。
外題は『壺阪霊験記』
前の3人も達者だったが役者が一枚も二枚も上だった。
年齢のことなど全く忘れて聞き惚れた。
節に、声に、啖呵に酔ってしまうほどの名調子。
2月もまた関西浪曲界の底力を見せつけられた気がした。
『壺阪霊験記』のあの名文句、妻は夫を慕いつつ夫は妻をいたわりつ、は無かった。
今回は抜き読みなんだろうか、それともあの文句は関東節にだけあるのだろうか。
ちなみに曲師は岡本貞子師匠。
二人揃って157歳、大衆芸能の国宝です。
大満足のうちに一心寺浪曲寄席2月公演終了です。


…午後3時過ぎ、雨の天王寺。
聖地『明治屋』へ行く。
K輪住職があと10年しっかり仕事して、そのかわり好きなことして遊ぶのだと宣言。
浪曲聴いておいしい酒を飲む、というのも小さいけれど確かな幸せの一つです。
いいなあ、手に職のある人は、定年もないしなあ、と聖職を冒涜するようなことを言ってはバチが当たります。
弟子になってお経を教えてもらってマンション坊主になろうかな。

                                                撮影:K輪和尚@明治屋

                             


『明治屋』では定番のうすはりガラスのお銚子で熱燗を飲む。
ここのデフォルト燗酒は奈良の『梅乃宿』の樽酒だそう。
旨口でやさしくて濃厚な味。
2軒目へ行こうとしているのでつまみは軽めに。
えんどう豆の卵とじ煮。
こういうものがうっとりするほど美味しいのです。


地下鉄御堂筋線で北上、本町で下りて『遊亀』淀屋橋店へ行く。
最近はもっぱら祇園でお世話になってるお店だがこっちの方が古いのだとか。
平日のビジネス街だから夕方5時は空いている。
コの字カウンターがダブルである。
メニューも祇園店より豊富のような気がする。
近江のものを売りにしているのだ。
鴨ロース、鹿肉の竜田揚げ、なまずのフライ、くわいの唐揚げ…。
住職は鮒鮨を注文する。
お酒はもちろん『金亀』だ。
ここもいいなあ。
お酒を2杯飲んだらけっこう酔うのだった。


あさりの味噌汁が欲しかったので〆はおにぎり。
これがちとデカい。

 

梅田のブックファーストで佐野眞一『あんぽん』と今野敏の竜崎シリーズ第3作『疑心』をクオカードで購入。
8時過ぎに早めの帰宅。
雨は上がっていた。