2011/3/23 球春!

朝、空気は冷たいが晴れる。
ヒロと自転車で甲子園へ行く。
防寒装備、膝掛け、野球というよりラグビー観戦のようだ。
デイパックに入ってこいつも一緒です。


ライトスタンドは春の陽だまり。
球児たちはすでにセンターの芝に整列していた。
芝の緑とユニフォームの白、あざやかなコントラストが目に眩しい。
見上げれば青い空と白い雲、野球の季節が始まろうとしている。
まさに、LETS' PLAY BASEBALL UNDER THE SUN!


春夏を通じて高校野球の開会式を現場で見るのは初体験。
司会進行も音楽も君が代独唱もブラバンもすべて高校生、
プラカードの校名を書いたのも全国書道コンクール優秀賞の高校生なんですね。
NHK放送コンクールで優勝した女子高生の達者な司会ぶりに驚く。
いや、達者なだけではない。
司会ぶりが美しいと初めて思った。
透明な声や端正な話し様が清冽というか輝きがあるというか…。
うーむ、若いっていいなぁと唸る。


1分間の黙祷。
甲子園にサイレンが響き渡る。


君が代の独唱は県立宮崎西高校の谷口まりやさん。
普段はなんとも思わない僕ですが彼女の独唱にはじーんと来ました。
高校生の底力を見た思い。
スポーツイベントで歌うJ ポップのシンガーより数十倍良かった。
マンモススタンドも一斉に本気の拍手を送る。
ヒロは、これ聞けただけで来た甲斐があった、と大満足。


続いて大会歌『今ありて』、合唱は神戸山手女子高校。
夏の選手権の『栄冠は君に輝く』は高校生の合同合唱団だが春は単独のようです。
歌い出しで涙腺が突如決壊した。


  新しい季節(とき)のはじめに 新しい人が集いて
   頬(ほほ)そめる胸のたかぶり 声高(こわだか)な夢の語らい


こういうの弱いんだよな。
現場で生で聴いたせいもあるだろうけど胸にズシンと来る。
世界の様子が変わると歌詞に別の命が宿る。


  ああ 甲子園 草の芽 萌え立ち
  駆け巡る風は 青春の息吹か

  
  今ありて 未来も扉を開く
  今ありて 時代も連なり始める


今ありて、のところで再び目頭が熱くなる。
東北のことではなく16年前のこの場所の出来事を思い出してしまった。
あの瓦礫の山だった時代があって、今がある。
扉は開かれ時代は連なり始める。
ああ、今はどんな歌にでも感応してしまう。
『サライ』だって『昴(すばる)』だって『春よ来い』だって泣く。
『踊るポンポコリン』や『ぞうさん』でも泣くかもしれない。
感動センサーのレベルがMAXになったまま。
ガラスの五十代なのだ。


2009年ものですが動画でご覧下さい。
今年は1番だけでしたが例年はフルコーラス歌うようです。

今日の独唱と合唱がアップされてました。
http://www.youtube.com/watch?v=4F4tuu3i18A


そして、センターからホーム方向へ各校が行進する。
『ありがとう』のマーチングバージョンが甲子園に流れる。
今やファンモンと高校スポーツテーマ市場を独占している いきものがかり のヒット曲。
ヒロと、なんだ行進するなら入場行進もさせたれよ、と悪態をつく。
ナイターを避けるための時間短縮が理由らしい。
多分に文句を言ってくる開催反対の人への配慮(ポーズ)でもあるのだろう。
だったら主催者の新聞社や高野連の挨拶を止めたらいいのにね。
波佐見高校(長崎)の手足のあげっぷりがハンパじゃなかった。
スタンドからどよめきが起こる。
でも不謹慎なんて思わない。
いいぞ!って感じ。
僕らはファンになりました。
茨城の水城高校の名前が呼ばれると拍手が大きい。
そして、東北高校に一番大きな拍手。
続く光星学園(青森)にも拍手が送られる。
地元八戸からの応援バスはキャンセルになった光星、
でも選手はスタメン9人中8人が大阪出身者、父兄は自宅から応援にかけつけた。
ちなみに香川西高は全員が県外出身者です。
http://www.hb-nippon.com/spring2011/school


高野連会長のあいさつ。
(短くしろよ)
ユール・ネバー・ウォーク・アローン、君は一人じゃない。
会長の口から英国サッカー、リバプールの応援歌『You'll never walk alone 』の話が出る。
ちょっと驚き。


そして選手宣誓。
創始学園(岡山)の野山主将、創部1年目で甲子園出場を果たした学校。
主将だが新2年生、まだ16歳だ。

「私たちは16年前、阪神淡路大震災の年に生まれました」
1995年生まれ、そうか、そうだったんだ。
「今、東日本大震災で多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです」
悲しみでいっぱいです、のところは少しためて感情をこめて声をひそめるように言う。
こいつ凄いな、スタンドからもそんな声が聞こえる。
「生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います」
全身に鳥肌が走る。
この日一番の拍手が甲子園を包む。


彼、野山主将の五分刈りと昭和っぽい風貌が時代を忘れさせる。
その真剣な表情、まなじりを決して死地へ向かう少年兵のようにも見えた。
茨木のり子の有名な詩の一節を思い出す。


  わたしが一番きれいだったとき
  だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
  男たちは挙手の礼しか知らなくて
  きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

 

センバツ開会式、いいものが見られた。
独唱の力、合唱の力、言葉の力、そしてまなざしの力。
そして、劇場としての甲子園という場の力を五感に感じた小一時間だった。
ヒロが開会式がこんなにいいとは知らなかった。
近くに住んでるんだから夏も絶対来る、と言う。
御意!


10時10分、甲子園にふたたびサイレンが鳴り渡った。
日本文理(新潟)と香川西(香川)の開幕試合が始まる。
サイレンの鳴り止まない中、初球が投じられた。
もう大丈夫、日本はもう大丈夫、そんな気持ちになってライトスタンドを去った。

 

ここまではひたすら感動&礼讃、ここからは少しだけ いちゃもん つけます。


「がんばろう日本」を高校球児に強要してるような気がしたのは僕だけだろうか。
当然ながら選手は、イヤです、とは言わないだろう。
選手宣誓は素晴らしかった。
でも、本来ならあれは総理大臣が国民に向けて言うべきことだ。
16歳や17歳の野球少年に言わせるなと思う。
少年を戦地へ送るような感覚さえする。
彼らは被災者を励ますために野球をやっているのではない。
選手に、がんばろう日本! と言わせないで欲しい。
本当は、がんばろうオレ!だろう。
お前らは、お前らのためにがんばって野球やればいいんだ。
いきものがかりの『ありがとう』に合わせて力一杯行進する球児たちを見て、
そうそう、16歳はそれでいいんだよ、と大人の責任が沸き上がってきた。


野球が日本を救う?
高校野球が24時間テレビのように空々しいものになって欲しくない。
今、日本でメディアを通じて何かを話す時に必ず言わなければいけないことがある。
お悔やみと励ましの言葉。
言わずして何かを始めるのは非国民であるような空気。
開会式や選手宣誓に感動した僕なのにそういう空気には抵抗がある。
佐々木俊尚さんが小学館のWEBマガジンに書いている。
http://www.news-postseven.com/archives/20110322_15631.html


 実は「人がつながって一致団結する」ということと、
 「圧力をかける空気をつくりだす」という行為は表裏一体で、容易にダークサイドに転ぶ。
 ある阪神・淡路大震災の被災者は、避難所のテレビで災害報道ばかり続くのにうんざりし、 
 『ドラえもん』が放送されたときに心が和んだという経験を話しているが、
 それさえ不謹慎だと批判する者がいる。


 私は経済活動を自粛する必要などまったくないし、バラエティ番組やアニメを放送しても
 不謹慎でも何でもないと考える。節電は必要だが、我々は普通に経済活動をし、
 日常生活を送ればいいのだ。ちゃんと稼がなければ、義援金も送れない。


がんばろう日本!
この類の言葉は被災者に届いているか?
小学校や町の体育館でざこ寝して暮らしている被災者の人たちに届くのか?
あくまで僕個人の経験上、神戸の避難所でテレビ見てる人なんていなかった。
(ラジオはあり)
電気の来てない避難所ではあり得ない。
写真家で作家の藤原新也は現地に入り短いが鋭い感想をWEBページにアップしている。
Shinya Talk というサイト。
http://www.fujiwarashinya.com/talk/index.ph


  2011/03/22(Tue)
  6:48 朝っぱらから流れる耳タコ希望


  ラジオテレビから延々と流れる続ける希望の言葉、はげましの言葉。


  言っておくがここ被災地の人々がその言葉を聞いている場面に
  一度も出くわしたことがない。


  残念ながら1000回の耳タコ希望は重ねれば重ねるほど浮いてしまい
  人々にとって鬱陶しいのだ。


  つまりそれは安全圏の中に住む人々の間のみで消費されている自慰行為に過ぎない。


  ここ数日の経験からするなら、希望言語より人々の心に寄り添ったなげき言語の方が
  ずっと人の心を癒すという不思議な人間の心の綾というものがあるということを
  希望希望と連発する人々は知って欲しい。


がんばろう! 空虚な言葉の励ましは本当は落ち込んでる自分たちのためなのだと思う。
被災地以外、あるいは被害の少ないエリアの人、先の見えない不安の中にある人のために。
避難所で耐久生活を強いられている人にとっては届かない言葉。
でも、それでもいいじゃないかとも思う。
安全圏に住む人々の中で消費される自慰行為だとしても、元気な人が一人でも増えればいい。


初めての開会式体験に感動しつつ、まなじりを決した選手宣誓を讃えながら、
ちょっと天の邪鬼な僕は同時にそんなことを思いました。
突っ込まないで下さい。


とにかく野球が始まった。
見ているだけで元気が出るのは間違いない。
そうでない人だっているだろうけど。
あ、でもセリーグの開幕を4日間遅らせた茶番はいまだに納得出来ない。
別の理由で断固反対。
これには天の邪鬼も選手会を応援する。


…センバツ第2試合からは自宅でテレビ&Uストリーム観戦。
試合途中で水道水に放射性物質が検出されたというニュースが割り込む。


夕方、ロードバイクのGiantをサイクルベースで点検してもらう。
変速機とブレーキ調整、チェーンの油差し、タイヤとチューブのチェック。
これで安心してサイクルジョグに励もう。
ヒロ珈琲西宮北口店でコーヒー豆を買う。


選手宣誓をした野山主将率いる創志学園は1回戦で負けてしまった。
中盤で追いついたが北海高校にホームランで勝ち越されゲームセット。
悔しいだろうな。
でも、みんな新2年生、夏が楽しみです。