2012/3/8 モノリスの群れ

入江をへだてて忽然と浮かぶ墓石のような高層建築群。
僕らはもう見慣れてしまったが初めてこの風景を見たときは目を見張った。
SF映画で描かれる異星の風景のようだった。
村上春樹が『神戸まで歩く』というエッセイの中で書いている。

…かつての芦屋の浜には、高層アパートがモノリスの群れのようにのっぺりと建ち並んでいる。

   


ウィキペディアによると、
モノリスとはSF作品『2001年宇宙の旅』シリーズに登場する、石柱状の謎の物体。
英語の一般名詞 monolith は、「ひとつの、または孤立した岩」という意味のギリシャ語から派生したラテン語に由来する普通名詞であり、
石柱、記念碑、オベリスク等の人工物、およびウルル(エアーズロック)、ストーン・マウンテン等の巨石を指す。



おととい初めて走った4キロのジョギングコースはこのモノリス群の中を東西に横断する。
ここは異星に移住した人類が何代も過ごしたコロニーで、この住宅群に住んでいる人は実は異人種である。
地球人とは違った能力を有し、独自の文化、信仰を発達させた。
緑道を走り高層住宅を見上げてそんな絵空事を想像する。


1979年(昭和54年)に生まれた高層住宅群。
震災前だったか、ここに住む人の家に泊めてもらったことがある。
地上27階に駐輪場があったり、地域暖房給湯、真空ごみ収集、かなりユニークな建築形態で一戸一戸の独立性が高い。
http://www.ceres.dti.ne.jp/~mat/ashiya-information/seasidetown/story.html


同名のレストランがある。
旧逓信省の建物らしいがモノリスじゃないですよね。
http://www.ashiyamonolith.jp/restaurant/

 

終日ひきこもる。
本当はどこかへ出かけようと思っていたのだが鼻水とくしゃみが止まらなくなった。
朝、起きて『カーネーション』を見て、たまたま眼鏡堂さんから電話があって、
そのときに「花粉症大丈夫ですか?」と聞かれ「ことしは雨が多いから助かってますよ」と僕は答えた。
ジョギングに出ようとしてシューズを履いた刹那、しゃみ連発、鼻水タレ流し、寒気が襲った。
ええいっと構わず花粉ガードのゴーグルをして走りだすもくしゃみが何度も足を止め呼吸を乱す。
おまけに昨日の酒が完全には消えておらず、ふらつき、、鼻水をタレ流し、くしゃみ止まらず。
ひどいジョギングとなり4キロの半分ほど歩く。
で、家ごもりを決めた次第。


今日もたぶん『ほぼ写日記』になると思う。

 

ひきこもったコックピットのような部屋。

 


NHKのドラマ『火の魚』を観た。
http://www.nhk.or.jp/hiroshima/program/etc2009/drama09/
2009年広島放送局制作、瀬戸内の小島を舞台にした室生犀星原作のドラマ。
作家の室生犀星と装幀家の栃折久美子がモデルらしい。
去年亡くなった原田芳雄とオノマチこと尾野真千子が主演、脚本は『カーネーション』の渡辺あや。


1時間の小品。
テレビドラマなのに小説を読んだ感覚が残る。
読後感というにふさわしい。
人は孤独である。
だからといって悲しいというわけではない。
だからといってさみしいというわけではない。
瀬戸内の小島の風景や、赤い金魚が泳ぐ姿や、村田や、折見の顔が心に刻まれてしばらく残る。
優れた映画だと思う。
心情を台詞やナレーションで解説しようとする下劣な演出は皆無だ。
台詞やしぐさやモノローグや、沈黙でさえもメタファー(暗喩)に満ちている。
次の場面に変わってしばらくして、その真意がこみあげてくる。


「ダウンワード・パラダイス」というブログに優れた緻密なレビューが載っていた。
http://eminus.blog.ocn.ne.jp/downward/2010/03/post_2fd0.html
このドラマ(小説)の本質をついているなと思ったのはたまたまブログ主が手にした池澤夏樹の解説文だ。
(室生犀星の原作の解説ではなく父 福永武彦の『忘却の河』に書いた解説ですが)


   果てしない廣野、はるかな地平の彼方まで、数知れぬ塔が立ち並んでいる。
   その天辺の一室に、人はそれぞれ一人っきりで住んでいる。
   隣の塔の住人とは話もできるし、笑いあったりもできるけど、しかし、抱擁して温もりを伝え合うことはできない。
   そのためには、いったん塔を降り、地上に出てきて接触しないといけないのだ。
   だけどなかなかその踏ん切りがつかなくて、人々はずっと、めいめいの塔のうえに篭もっている。


塔から下りてきた村田と折見が交わす最後の会話がいい。
村田「何も言うな」
折見「はい」
村田「行け」
何も言わないことであふれ出しそうな叫びをかろうじてそれぞれの中に押しとどめている。
僕はこういう精神性を好ましく思う。
そのあと、島へ帰る船上で村田が叫ぶ。
これがまたいい。


ロケ地は広島の大崎下島(おおさきしもじま)。
この島の御手洗(みたらい)という町は風待ち潮待ちの港として江戸時代から賑わった。
http://home.hiroshima-u.ac.jp/naby/mitarai.html
港の情景は去年行った鞆の浦によく似ていた。
あの旅の日記もいまだ書いてない。


去年6月に行った鞆の浦。

 

“阪神温泉郷”のひとつ『あしや温泉』へ行く。
(こもってないじゃん)
震災直後は仮設の建物だったが見違えるように立派な施設になった。
芦屋市営だから380円と安いが愛想のないデザインで病院の入浴施設というイメージ。
北海道の町営温泉という感じ。
でも、自治体がやっている温泉でも洒落たデザインで魅力ある施設もある。
こういうのは担当者のやる気次第なのだろう。
源泉は44度とかなり熱い。


夕食はオムライス。