2012/2/1 独り神戸 #2

2月、二粒目のルックチョコをかじる。
新しい月の始まりのは強烈に寒かったけどそれなりに充実した一日だった。
とはいえ、僕の場合は仕事ではなく一人遊びですが。


甲子園まで4キロ歩いてリハビリ40分。
ららぽーとのタリーズで1時間半ほど本を独読書。
阪神で石屋川まで行き「おとめ塚温泉」で独湯治。
六甲道の立吞みの名店「ぼちぼち」で軽く独酌。
JR元町へ行き南京町「ぎょうざ苑」で独夕餉。
シネリーブル神戸で映画「サラの鍵」を独観賞。
ひとり幸福感にひたって帰宅するとヒロが欲しかったUNIQLOのコートが半額以下で買えたと歓喜。
格安な多幸感に包まれて一日が終わる。

 

…リハビリ

いつものように低周波治療器で左肘に電気を流す。
その後、マッサージと筋肉回復トレーニング。
永田整形外科のリハビリ隊は鍛え抜かれた精鋭部隊。
スタッフはきびきびと、そして黙々とマッサージや筋トレを施し、
たとえは適切ではないかもしれないが野戦病院のようだ。
僕の担当のM先生は推定30代前半の男性、太極拳教室の講師でもある。
柔道整復師と鍼灸師の資格を持っている。
スタッフの中には理学療法士もいてそれぞれにアプローチが違うらしい。
柔道整復師はいわゆる接骨院、ほねつぎさんである。
昔は骨折や脱臼は学校の近所の接骨院にかつぎこまれたものだ。
M君によるとある時期以降、接骨院でレントゲンを扱うことが出来なくなった。
(それまでは暗黙に許されていたのだとか)
今は骨折したらみんな病院へ行くようになった。
接骨院では柔道整復師としての技術を発揮することが出来ない。
だから整形外科で療法士として働くことにしたのだという。
この病院は救急治療もあるのでM君は志願して立ち会っているのだとか。
毎日、いろんなケースの骨折や脱臼の患者が担ぎこまれてくる。
いろいろな症例を見ることが勉強なのだそう。
やる気ある若い人と話しているとこっちも元気になる。
「手術跡はくっついてますか?」と僕。
ちょうど死角になって見えないのだ。
「あ、ちゃんと治っていってますよ。」とM君。
「縫い目のタテ方向は問題なしですけどヨコはまだちょっと不安定ですね。
 指でグイって引っ張ったら裂けるでしょうね。裂く自信ありますよ。」
あのね、そんな自信要らないから。


…読書

ここんとこ毎日ららぽーとへ来てる気がする。
この場所に来るといわゆるグローバリゼーション、世界規模化が体感できる。
一歩モールに入ると世界がある。
国内資本は半分以下ではないだろうか。
入り口にTULLY'S、中央付近にSTARBUCKS、Krispy Kreme Doughnuts(アメリカ)、
もともとあったAIGLEやColumbiaなどの僕の知ってるアウトドアブランドは言うに及ばず、
最近はヒロ曰く“スペインのユニクロ”と言われるZARA、“スウェーデンのユニクロ”のH&M、
阪神パークがあったローカルでドメスティックな場所に世界中から出店されている。
ただし、ZARAもH&Mも客が入っていない。
売り場を外から覗いて思う。
品揃えがなんか日本にはしっくりきてないもん。
アメリカやヨーロッパの安っぽいスーパーに衣料品売り場の感じ。
どの服もどこか違和感があってあんまり欲しいものがないあの感じ。
シャツもジャケットもあんまり日本人が着そうもないデザインだし。
売れないとなればさっさと見切って「閉店ガラガラ」になるんだろうな。
西宮には北口にもうひとつの巨大モール『阪急西宮ガーデンズ』がある。
『ららぽーと甲子園』はちょっと押され気味だ。
その分、空いているし、元々スペースも広く低層なのでアメリカ郊外のモールに近い雰囲気。
しばし自転車で行けるアメリカを楽しもう。


TULLY'S で珈琲を飲む。
STARBUCKSは混んでいるが、ここは空いていて肘つきのチェアもあり読書に向いている。
甲子園球場の外壁を眺められるいつもの席に座って池澤夏樹の本を読む。
壁際に2人席が6セットほど並んでいる。
そこにはいつも一席あけて等間隔に独り客が座っている。
たいていは若い女性だ。
女性以外はその席に座りにくい雰囲気がある。
武庫川女子大の学生か、30代前半くらいのワーキングウーマン。
正対するエリアに2人席が3セットあり僕がお気に入りの肘掛けつきの椅子が並んでいる。
僕が窓の外へ向いて座ると向かい合わせになる。
その間、およそ4メートルほどか。
たまたま座った真正面が美人だと緊張する。
ほどほどでおっとりした感じの人がベストだ。
おっちゃん楽しそうやな。
そやろ。
ほっといてくれるか。


池澤夏樹の短編集『きみのためのバラ』を読む。
数年前に買ってすぐに読んだ。

きみのためのバラ (新潮文庫)

きみのためのバラ (新潮文庫)


この本をこの店で読み終えた記憶が一昨日ここで珈琲を飲んでるときに甦った。
2編くらい読み残していたはずだ、と。
続きはここで読もうと思い書棚から出した。
表題作の「きみのためのバラ」を読む。
主人公の回想。
若い頃、メキシコを貧乏旅行した思い出が語られる。
いい感じ。
ラスト5ページになって気がついた。
これ読んだわ。
もう一編「ヘルシンキ」を読み始めるとすぐに気づいた。
これも読んでた。
結局、とっくに読み終えてたんだ。
前に読み残してたという記憶がデリート出来てなかったんだ。
モーロクしてるなあ。
ハードディスクの断片化は深刻だ。
でも、損した気分はない。
けっこう楽しめたからいいか。

 

…温泉

阪神甲子園から西へ。
鈍行しか停まらない石屋川駅で下車する。
六甲おろしが身を凍らす。


『火垂るの墓』の文学碑が建っている。
川に沿って北上すると2号線沿いに御影公会堂のレトロ建築が見えてくる。
正面からしか見たことがなかったが西側の壁面も趣がある。


ほどなく「六甲おとめ塚温泉」の派手な看板が目に入る。
一見ただの銭湯だが湯はストロングタイプ、阪神間屈指の温泉として知られている。
琥珀色、かすかなモール臭(鉱物の匂い)がする炭酸泉。
炭酸泉だからぬるめで長く入っていられる。
呆けたように露天風呂で長湯する。
体中に細かい気泡がつく。
肘の関節をゆっくりと動かす。
手のひらを開いたり閉じたりする。
野生のニホンザルになった気分で傷を癒す。
兵庫県の銭湯代は410円。
阪神間は95年の震災以降、何ヶ所かに温泉が湧いた。
西宮市内にも二葉温泉という天然湯がある。

 

…独酌

温泉でぽかぽかと暖まった。
午後4時半、六甲道駅前の「ぼちぼち」の開店時間だ。
ここも阪神間屈指の実力派立ち飲み店。
シンプルなバル風の雰囲気も、料理も、酒も、何よりも働いているスタッフがいい。
てきぱきと動き、声を出し、愛想がよく、媚びない。
訓練されているというより中心になる人がいい空気を作っているのだろう。
サッポロ黒生の中瓶(390円)とグリーンアスパラの豚肉巻きフライ(350円)
隣に常連さんらしき70歳代の爺さんが二人、にこにこ笑って燗酒を飲んでいる。

隣にガタイのいい肉体労働者らしきおっちゃんが立つ。
カウンターにティッシュの箱をぽんと置く。
マイティッシュ!
初めて見た。
花粉症なのだろうか。
ローカルな居酒屋ではときどき不思議な光景を目にする。


JRで元町へ移動。
南京町の餃子の老舗「ぎょうざ苑」へ行く。
久しぶりにここの餃子が食べたくなったのだ。
昼間は満員だが夜早い時間は空いている。
ゆったりと4人席を独占。
青島ビール小瓶、焼き餃子一人前にジャージャー菜。
ジャージャー菜はたっぷりの茹で野菜に肉味噌をかけたもの。
酒のいいつまみになるのだ。
味噌につける神戸スタイルの餃子も旨い。
食欲を刺激されて紹興酒一杯追加。
ごはんとスープのセット(300円)に ちょい肉味噌のせ というオプション(100円)がある。
久々の「ぎょうざ苑」を満喫、満腹になっちまった。


…映画

独り遊びの〆は映画です。
『サラの鍵』@シネリーブル神戸


今日は1日、映画の日で一律1000円。
18:55の回、入りは4割に満たないくらいか。
熱い珈琲をすすりながら遠い国の物語を見る。
ナチスではなくフランス政府が行ったユダヤ人の大量逮捕と虐待。
パリ市内に住むユダヤ人が女子供も容赦なく一斉検挙され屋内競輪場へ数万人が押し込まれた。
「ヴェルディヴ事件」といわれるフランス政府によるユダヤ人迫害のことは長く歴史の闇に埋もれていた。
1995年、シラク大統領の演説で初めて明らかになったという。
あらすじはこうだ。(シネマトゥデイWEBページより)


  夫と娘とパリで幸せに暮らすアメリカ人女性記者ジュリアは、 取材の中で衝撃的な事実に出会う。
  夫の祖父母から譲り受けたアパートのかつての住人が、 アウシュビッツに送られたユダヤ人家族だったのだ。
  さらに長女のサラが収容所から逃亡したことを知るジュリア。
  1942年のフランス警察によるユダヤ人一斉検挙の朝、 サラは弟を納戸に隠して鍵をかけた。すぐに戻れると信じて―。


  サラは弟を助けることができたのか?
  二人は今も生きているのか?
  次々と明かされる秘密がジュリアを揺さぶり、人生さえも変えていく。
  やがてジュリアは未来を左右する大きな決断を迫られるのだが―。



主演のクリスティン・スコット・トーマスがいい。
年老いて、おそらく50代になっているがなお女性として美しいのだ。
最初は執拗に謎を探ろうという彼女の行動についていけないところもあったが、
夫との関係や不妊や流産のことなどを知りその心の内を知ることになる。


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フランスでつくられた映画。
第二次大戦でドイツに蹂躙されたフランスはレジスタンスの国というイメージが強い。
自国の恥部ともいえる「ヴェルディヴ事件」を扱う映画を作ってヒットさせた。
アメリカと同じでこういう自己反省、自己批判があることは健全だ。
それに比べて、と思ってしまう。


Podcastでたまたま経済危機のスペインの住宅事情について知った。
持ち家率が80%、都市部でも農村部でも100年、200年と保つ家ばかりなので各戸の負担は少ない。
家賃もかからないし、リフォームすれば半永久的に住める。
羨ましい話だ。
でも、映画のようなことがあるんですよね。
歴史、というのは善も悪も幸福も悲劇も地層のように積み重なっていく。


長い日記になってしまいました。
ちなみに「独り神戸」の#1は去年の年末、こちらです。
独り遊びはどうもダラダラと長くなりまして。
http://d.hatena.ne.jp/shioshiohida/20111228/1325025487